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東京地方裁判所 昭和54年(ワ)7342号 判決

昭和五三年(ワ)第一一、四一〇号事件(以下「第一事件」という。)原告、

同五四年(ワ)第七、三四二号事件(以下「第二事件」という。)被告

後藤照美

第二事件被告

後藤庸輔

右両名訴訟代理人

石原英昭

石原豊昭

第一事件被告、第二事件原告

田中幸夫こと

金仁玉

右訴訟代理人

大隅乙郎

主文

一  第一事件原告、第二事件被告後藤照美(以下「原告照美」という。)の請求のうち、東京地方裁判所昭和四八年(ケ)第一四〇号不動産競売事件につき同裁判所の作成した別紙物件目録(二)記載の建物についての配当表に関する部分の訴えを却下し、その余の部分の請求を棄却する。

二  原告照美及び第二事件被告後藤庸輔(以下「被告庸輔」という。)は、第一事件被告、第二事件原告金仁玉(以下「被告金」という。)に対し、各自金一七六九万九四八八円及びこれに対する昭和四二年一二月三一日から支払ずみまで年三割の割合による金員を支払え。

三  被告金のその余の請求を棄却する。

四  訴訟費用は、第一・第二事件を通じ、これを三分し、その一を被告庸輔の負担とし、その余は原告照美の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

(第一事件)

一  請求の趣旨

東京地方裁出所昭和四八年(ケ)第一四〇号不動産競売事件につき、同裁判所の作成した配当表のうち、被告金に対する交付額を取り消し、これを原告照美に交付する。

二  請求の趣旨に対する答弁

1 原告照美の請求を棄却する。

2 訴訟費用は、原告照美の負担とする。

(第二事件)

一  請求の趣旨

1 原告照美及び被告庸輔は、被告金に対し、各自金二〇〇〇万円及びこれに対する昭和四二年一一月一日から支払ずみまで年三割の割合による金員を支払え。

2 訴訟費用は、原告照美及び被告庸輔の負担とする。

3 仮執行の宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1 被告金の請求を棄却する。

2 訴訟費用は、被告金の負担とする。

第二  当事者の主張

(第一事件)

一 請求原因

1 東京地方裁判所は、昭和四八年(ケ)第一四〇号不動産競売事件につき、別紙物件目録(一)記載の土地(以下「本件土地」という。)の売却代金中三一一三万三五三二円及び別紙物件目録(二)記載の建物(以下「本件建物」という。)の売却代金中二三七六万〇三七〇円の合計五四八九万三九〇二円を被告金に配当する旨の配当表を作成したので、原告照美は、配当期日に被告金の債権に対し異議を申し立てたが、被告金は原告照美の異議を認めなかった。

右の配当表には、被告金に対し、本件土地につき昭和四二年九月一日に設定契約をした抵当権の被担保債権たる貸付金譲受債権の元金二〇〇〇万円に対し一〇九八万円、損害金に対し二〇一五万三五三二円を、本件建物につき右の元金二〇〇〇万円に対し九〇二万円、損害金に対し一四七四万〇三七〇円を配当する旨が記載されている。〈以下、事実省略〉

理由

(第一事件)

一原告適格について

被告金は、民訴法六九八条の「債務者」には連帯保証人及び物上保証人は含まれないから、原告照美は配当異議訴訟を提起する適格がない旨を主張するので、この点について判断する。請求原因第1項の事実並びに第一興業が昭和四二年九月一日、国際ミクニ交通から二〇〇〇万円を借り受け、同日、原告照美が国際ミクニ交通に対し第一興業の右債務につき連帯保証をしたこと及び原告照美がその所有する本件土地につき、第一興業がその所有する本件建物につき、それぞれ国際ミクニ交通と代物弁済の予約及び抵当権設定契約を締結したことは、当事者間に争いがない。ところで、抵当権の実行による不動産競売事件において配当期日が開かれ、配当表が作成された場合、期日に出頭した抵当不動産の所有者が債権者の債権に対し異議を申し立て、期日に異議が完結しなかつたときは、その所有者は、配当表に対する異議の訴えを提起することができるものと解するのが相当である(最高裁昭和四九年(オ)第一九号、同年一二月六日第二小法廷判決民集二八巻一〇号一八四一頁)から、原告照美は、本件土地に関する配当表に対し、異議の訴えを提起しうるものと解される、しかしながら、本件建物の所有者は第一興業であるから、本件建物に関する配当表については、原告照美は第一興業の債務についての連帯保証人であることに基づいて異議の申立てをすることになる。この点につき、原告照美は、民訴法六九八条の「債務者」に準ずるものとして異議申立ての適格を有するものと主張するけれども連帯保証人は競売売却代金がこれを本来受け取るべき者に交付されることについて利害関係を有しないものではないが、他方、連帯保証人は、債務者に対する求償権の行使によつて債務弁済のためにした自己の出捐分の回復をはかることが可能であり、また、配当異議につき、申立適格者の範囲をいたずらに拡張するときは、配当手続が迅速に完結しないこととなるおそれがあるなど諸般の事情を考慮すれば、民訴法六九八条の「債務者」には連帯保証人を含まないものと解するのが相当である。そうすると、原告照美の本件配当表に対する異議のうち、本件建物に関する部分については原告適格がないものというべきである。

二次に、原告照美の本件土地の配当表に対する異議について検討する。

1  前記のとおり、請求原因第1項の事実並びに第一興業が昭和四二年九月一日、国際ミクニ交通から二〇〇〇万円を借り受け、同日、原告照美がその所有する本件土地につき、第一興業がその所有する本件建物につき、それぞれ国際ミクニ交通と代物弁済の予約及び抵当権設定契約を締結したことは、当事者間に争いがないところ、〈証拠〉を考え合わせると、国際ミクニ交通が第一興業に二〇〇〇万円を貸し付けた際、弁済期は六〇日とするが五回まで更新しうるものとすること、利息は一か月八〇万円として二か月分一六〇万円を天引きしたこと及び期限後の損害金は利息が法定の限度額に制限される場合には年三割とすることを合意したことを認めることができ〈る。〉原告照美は、右の貸付けの際、利息一六〇万円の外に手数料名義でさらに一〇〇万円天引きされた旨を主張し、右の主張に沿うと考えられる被告庸輔本人の供述があるが、右の供述によっても貸主である国際ミクニ交通が一〇〇万円を受け取つたことを認めることができず、結局、本件全証拠によっても、手数科一〇〇万円を国際ミクニ交通により天引きされた事実を認めることはできない。

また、〈証拠〉によれば、第一興業は、国際ミクニ交通に対し、昭和四二年一〇月二八日、一一月分の利息として八〇万円を支払つて手形を一か月書き替えてもらつたこと及び同年一一月三〇日、同年一二月三〇日までの利息として八〇万円を支払い、同日を支払期日とする手形を振り出したことを認めることができ、他に右認定に反する証拠はない。右によれば、第一興業は、二度にわたり約定の一か月八〇万円の利息を前払いすることで一〇月末の弁済期を一か月ずつ延期してもらい、結局、弁済期は同年一二月三〇日まで延期されたことを認めることができる。

右によると、第一興業は、昭和四二年九月一日、国際ミクニ交通から二〇〇〇万円を借り受けたが、その際、二か月分の利息として一六〇万円を天引きされ、同年一〇月二八日に一一月分の利息八〇万円を、同年一一月三〇日に同年一二月一日から同月三〇日までの利息八〇万円をそれぞれ前払いし、弁済期も同年一二月三〇日まで延期されたのであるから、右の天引額及び支払い利息のうち利息制限法一条所定の年一割五分の制限を超過する部分を元本に充当すると、国際ミクニ交通が同年一二月三〇日現在第一興業に対して有する債権の残元本は、次の(一)ないし(三)のとおり、一七六九万九四八八円となる(二回にわたる利息の前払いについては、消費貸借契約締結時に利息分を元本から天引きすることとその実質において変わるところがないので、利息制限法二条を準用するのを相当と解し、元本充当額を計算するにあたつて残元本から前払い利息分を控除した額を基準とする。)。

(一) 昭和四二年一〇月三一日現在の元本は、一八八六万一二六〇円である。すなわち、2000万円−{160万円−(2000万円−160万円)×0.15×61日÷365日}

(二) 同年一一月三〇日現在の元本は、一八二八万三九三三円である。すなわち、1886万1260円−{80万円−(1886万1260円−80万円)×0.15×30日÷365日}

(三) 同年一二月三〇日現在の元本は、一七六九万九四八八円となる。すなわち、1828万3933円−{80万円−(1828万3933円−80万円)×0.15×30日÷365日}

2  次に、国際ミクニ交通が昭和四七年四月一日、第一興業に対する債権をケイエム国際に譲渡した旨を、ケイエム国際が同年七月二七日、右の債権を被告金に譲渡した旨を、それぞれ債務者である第一興業に通知したことは当事者間に争いがないところ、〈証拠〉によれば、第一興業に対する本件債権を国際ミクニ交通は、昭和四七年三月二七日、ケイエム国際に対し譲渡し、さらに、ケイエム国際は、同年七月一八日被告金に対し譲渡したことを認めることができ、他に右認定に反する証拠はない。

3  ところで、原告照美は被告金の右債権につき時効消滅を主張するので検討する。

国際ミクニ交通の第一興業への貸付は、いずれも株式会社であることからみて、商行為と解することができる。

そして、右の弁済期が昭和四二年一二月三〇日まで延期されたことは先に認定した通りであるから、本件債権は同年一二月三一日から五年間経過することにより時効のため消滅することとなる。

そこで、被告金の時効中断の主張について判断する。

国際ミクニ交通が、昭和四三年一月九日、原告照美及び第一興業に対し、本件土地及び本件建物についての代物弁済の予約を完結させる旨の意思表示をし、同月二三日、原告照美及び第一興業を被告として本件土地及び本件建物の所有権移転登記を求めて訴を提起し(東京地方裁判所昭和四三年(ワ)第六〇八号事件)、被告金は、昭和四八年二月二二日、原告照美らを相手方として右の訴訟に参加(東京地方裁判所昭和四八年(ワ)第二一三〇号事件)したこと、その後、国際ミクニ交通は、昭和五三年一〇月五日、右の訴えを取り下げ、同日、被告金も右の参加申立てを取り下げたところ、右の各取下げの効力が昭和五四年一月二一日原告照美に生じたこと及び原告照美が昭和五三年一一月一六日、本件第一事件の訴えを提起し、被告金は、昭和五四年一月一九日、応訴したことについては当事者間に争いがない。ところで、右の所有権移転登記を求める訴えは、本件債権を担保するための代物弁済の予約を完結させる旨の意思表示をした結果なされたものであり、担保権の実行による被担保債権の内容の実現を裁判手続によつて求めているものであるから、直ちに、本件債権自体の訴えの提起に準ずるものということはできないとしても、右の訴訟係属中は本件債権について裁判上催告がなされているものとして、本件債権の時効中断の効力が存続するものと解するのが相当である。そうすると、連帯保証人である原告照美に対する右の訴えの取下げの効力が生じた昭和五四年一月二一日までは本件債権について催告が継続していたものと解することができる。そして、原告照美が昭和五三年一一月一六日、本件第一事件の訴えを提起するや、昭和五四年一月一九日に被告金は、本件債権の存在を主張して請求棄却の判決を求める旨の答弁書を提出したのであつて、右の答弁書の提出は、本件債権について権利主張の意思が明らかであつて訴えの提起に準ずる効力を有するものと解するのが相当である。

右によれば、本件債権については催告の継続と本件第一事件の答弁書の提出によつて時効が中断されているものと解される。よつて、原告照美のこの点に関する主張は理由がない。

4  次に、原告照美は、被告金が本件債権を朴泰雄に譲渡した旨を主張するので、この点について検討する。

被告金が昭和五三年九月二日、第一興業に対して、本件債権並びにこれを担保する代物弁済予約上の権利及び抵当権を朴泰雄に譲渡した旨を通知したことは当事者間に争いがない。〈証拠〉によれば、被告金と朴泰雄とは、昭和五三年一一月六日、右の債権譲渡を合意解除し、朴泰雄がその旨を昭和五四年四月一三日に第一興業に対して通知したことを認めることができ、他に右認定に反する証拠はない。右の債権譲渡を解除する旨の通知は、本件配当期日(昭和五三年一一月一〇日であることは当事者間に争いがない。)後になされたのであるが、配当異議訴訟においては配当期日後に生じた事由も主張しうると解するのが相当であるから、被告金は本件債権を有することを第一興業に対し主張しうると解することができる。右によれば、その余の点について判断するまでもなく、原告照美の債権譲渡に関する主張は理由がないものといわざるをえない。

5  以上によると、被告金は、国際ミクニ交通が有していた第一興業に対する債権及び本件土地に対する抵当権を、同会社からケイエム国際、さらに被告金と順次譲り受けたものであるから、本件抵当権者として、本件土地の任意競売における配当期日に、その権利を主張することができるところ、上記のとおり、国際ミクニ交通が昭和四二年一二月三〇日現在有していた残元本は一七六九万九四八八円であるから、被告金が配当要求している昭和五三年一〇月三一日現在、第一興業に対して有する債権は、元本一七六九万九四八八円、昭和四二年一二月三一日から昭和五三年一〇月三一日までの年三割の割合による損害金五七五三万五四五八円、合計七五二三万四九四六円となる。被告金が配当期日において、元本二〇〇〇万円、昭和四二年九月一日から同年一一月三〇日までの年一割五分の割合による利息四九万三二〇〇円及び同年一二月一日から昭和五三年一〇月三一日までの年三割の割合による損害金六五五〇万円、合計八五九九万三二〇〇円の計算書を提出したこと及び本件土地から三一一三万三五三二円の交付を受ける旨配当表に記載されていることは当事者間に争いがないところ、右のとおり、本来、昭和五三年一〇月三一日現在の債権額は七五二三万四九四六円であるから、一〇七五万八二五四円(八五九九万三二〇〇円から七五二三万四九四六円を控除した金額)超過する計算書を提出していたこととなる。そうすると、他の債権者の債権額に対する割合からみて、被告金が本件土地の売却代金から交付を受けるべき金額も右の配当表記載額より少ないものとなることが明らかである。しかし、原告照美は、本件土地の物上保証人として、その売却代金を各抵当権者に交付したうえで剰余金が出た場合、初めてその交付を受けることができるにとまるのである。そして、被告金の本来の債権額七五二三万四九四六円のうち、本件建物からの交付額は二三七六万〇三七〇円であるから残債権が五一四七万四五七六円となるところ、本件土地からの本件配当表記載の交付額は三一一三万三五三二円であつて、本件土地の売却代金から被告金の有する抵当権の被担保債権は満足を受けられないことが明らかである。そうすると、被告金の残債権は、原告照美の剰余金の交付を受ける権利に優先し、かつ、物上保証人に対する関係では、民法三七四条の利息その他の定期金を最後の二年分に限定する規定は適用されないと解するのが相当であるから、結局、原告照美が剰余金の交付を受ける余地は全くないこととなる。右によれば、被告金が配当期日に提出した計算書の債権額と本来有する債権額とが前記のとおり相違するとしても、原告照美が剰余金の交付を受け得る余地が全くないのであるから、原告照美は、本件土地に関する配当表について異議を述べることはできないものと解するのが相当である。

(第二事件)

原告照美及び被告庸輔が昭和四二年九月一日、国際ミクニ交通に対し、第一興業の国際ミクニ交通に対する前記二〇〇〇万円の貸金債務について連帯保証をしたことは、当事者間に争いがないところ、右のとおり、国際ミクニ交通は、昭和四二年一二月三〇日現在第一興業に対し残元本一七六九万九四八八円の債権を有し、右債権を国際ミクニ交通からケイエム国際、同会社から被告金が順次譲り受け、各譲渡については債務者第一興業に対し、その旨を通知しており、原告照美及び被告庸輔の主張する時効消滅の点は、国際ミクニ交通の第一興業に対する上記二〇〇〇万円の貸付けが、主たる債務者である第一興業の関係でも商行為であることは前記判示のとおりであるから、商法五一一条二項により、その連帯保証人相互の間に連帯関係が存するものと解されるところ、連帯保証人である原告照美に対する関係で催告及び被告金の第一事件についての応訴により中断している以上、民法四三四条の規定を類推し同じく連帯保証人である被告庸輔に対する関係でも時効は中断しているものと解され、他方、朴泰雄に対する債権譲渡の点も理由のないこと先に判示のとおりであるから、被告金の請求のうち、一七六九万九四八八円及びこれに対する昭和四二年一二月三一日から支払ずみまで年三割の割合による損害金の支払を求める限度で理由があることが明らかである。

以上によれば、原告照美の請求のうち、本件建物の配当表に関する部分については配当異議の申立てをする適格を有しないので、その訴えを却下するとともに、本件土地の配当表に関する部分についてはその理由がないので棄却することとし、被告金の請求のうち、一七六九万九四八八円及びこれに対する昭和四二年一二月三一日から支払ずみまで年三割の割合による約定遅延損害金の支払を求める限度で理由があるので認容するがその余は理由がないので棄却することとし、訴訟費用の負担について民訴法八九条、九二条但書、九三条一項但書を適用し、被告金の仮執行宣言の申立ては相当でないから却下することとし、主文のとおり判決する。

(牧山市治 小松峻 佐久間邦夫)

物件目録(一)、(二)〈省略〉

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